[原文]
清少納言の記せる古き書を/ 見侍るに智ふかふして人の/ 心目をよろこばしむこと多し / 其中に智恵の板と名づけ/ 図をあらわせるひとつの巻/ あり是を閲するに幼稚の児女/ 智の浅深によって万物の形/ を自然にこしらへもろもろの器/ の図はからずも作り出すこと/ 誠に微妙のはたらき有しかれ/ ども其図は往昔の器物の形

[訳文]
清少納言が書いた古い文を見ると、彼女は智恵が豊かで、人々を楽しませることが多く書かれている。
その中に、智恵の板と名付けて、図を描いた一冊がある。
これを見てみると、幼い子どもたちが智恵の程度によって万物の形を自然に作ったり、いろいろな器物の形を 偶然にも作り出しているのは、まったくその(智恵の板の)不思議な作用である。
しかし、その図は昔の器物の形だったり、

[原文]
又は雲上の御もてあつかひの品/ ゆへ今の児女その心を得がた/ し故にあらたに図を作り/ 当用の器物まぢかき形を/ 記せり人々智の至るところ/ にしたがひ板のはこびによっ/ て品かわりたる形あらはれ/ ずといふことなしこゝに手 / 引のために百分の壱つを示 / すものなり初に諸物の図を/ 出し奥に板のならべ様の図/ を載すされども奥のならべ様を/

[訳文]
または宮中で使われていたものだったりするので、今の子どもたちにはその意味がわかりにくい。よって、ここに新しく図を起こし、今風の器物の形を描いた。
皆さんの智恵の発達具合に従って、板の置き方次第で、変ったおもしろい物の形が出現するに違いない。
この本は、例題としてその百分の一を示したものだ。初めにいろいろな物の図を描き、後に板の置き方の図を載せた。だが、後の置き方を

[原文]
見ずして初めの図のごとく/ 人々の作意にて七つ板のならべ/ はこびを考へ給はゞ不測の/ はたらきありて一座の興を/ 催すべきものならし

[訳文]
見ないで、初めの図のように皆さんの頭を働かせて七つの板の並べ方をお考えくだされば、思いがけぬ形ができあがったりして、一座も盛り上がることだろう。

寛保二年 戌八月

含霊軒述

秘伝の巻に残らず顕はすといへども
爰に壱つを出し板のならべ様を見す

八角かがみ

七つ板
ならべ様